山田詠美の作品は何故か好きだ。そういった体験をしたいと決して思っているわけではないというのに(深層心理ではしたいと思っているかもしれないけれどw)、まともな恋愛すらしたこともないというのに、とても好きだ。なんでかな?と考えてみるに、ストーリーがいいというより登場人物が魅力的なのかもしれないなと思った。A2Zでいえば、夏美と一浩。どちらともやり手編集者で似たもの同士で、結婚しているというのに、ほどなくしてパートナーとは異なる魅力をもった若い女や男に手を出す―しかも一浩はそれをあっけらかんと夏美に打ち明ける。普通に考えたらありえない展開だ。だけど、それでも夫婦として成立する妙味。TVでよくあるような、どろどろとした穢れが金輪際感じられない不倫(しかもお互いに)。それなのに、繰り広げられる会話は何故かやたらと現実的で響くものがある。
好かれるのは、うっとりと目を閉じて、すごく良かったわ、とだけ呟く女。それは解っている。ついでに、こんなの初めて、なんて付け加えておけば、なおさら好感を持たれる筈。
恋をしたら、誰もが自分の内なる子供に占領される。その部分の大きさは、人それぞれだけれども。まるで子供のように、欲しがる、泣く、訴える、そして、笑い、満足する。大人の所作にしては身勝手すぎる。それが、恋にうつつを抜かすこと。
人と出会うのって、全部ハプニングじゃない。でも、それを偶然にしておくかおかないかは、その人の意欲にかかってるんじゃないかって思う。
一緒に泣くことを友情と勘違いした女が、どれ程多いことか。問題を抱えた時に、本当に助けになるのは、うまい飯、上等な酒、乾いた笑いに、辛辣な助言。