「断固として進め」を読了。
昨今、エボラウイルスの特効薬についてのリリースだったり、IPS細胞関連の米企業の買収だったりと、もはやフィルム会社としての面影が影も形も全く持って見られないくらいコングロマリット化した富士フィルムの軌跡を書いたビジネス小説。デジカメ、スマホの普及に伴い、売上のほとんどを占めるフィルム事業が激減する中、構造改革の断行を決断し、新規事業として化粧品事業の立ち上げまでを描いた作品である。
読んでて感じたことは大企業でありながらも、大胆な構造改革への舵のきり方の速さ(信じがたい程の意思決定の鋭さ)と平時から”技術”に対する際限なき追及を行うことを是とする懐の広さ(しかも、本業とかかわりが薄い分野まで手広く!)こそが富士フィルムの強みなんだろなあと。基礎研究がどれだけビジネスに貢献しているかははっきりわからないけど、ああいう基礎研究を平時から積み上げ続けてきていること自体、小さい企業では到底出来ないことだし、それこそ大企業であってもビジネスの種になるかどうかもわからない基礎研究にお金を投じることなどなかなか出来ないはずだ。そういう意味で富士フィルムは、資金力、技術力もある素晴らしい会社であるのは間違いないわけだが、何より素晴らしいのは、技術に理解のあるトップがおり、窮地に陥りそうな中であったにも係らず、適切なタイミングで、適切な意思決定を下し、行動に移せたことなんだろうなと思う。言葉でいうのは簡単だけど、実際の現場は相当大変だったのではないかと思う次第。最後に、小説での新規事業のプレゼンでの一言を。
新規事業を考える場合、「やれそう、やるべき、やりたい」という三つの基本条件を満たすべきだと思います。わが社であろうと他社であろうと、その技術を検証して、やれそうな事業を手掛けるべきだと思います。しかし、それだけではいけません。やるべきか、を検討しまう。市場性、収益性、将来性などです。それらは取締役が仰る通り不確定な要素に満ちています。なにせ誰も手をつけなかったから新規事業なのですから、それらを正確に見通せるはずがありません。そこで最も重要なのが、やりたいという強い意志です。これは私たち技術者の情熱です。上から言われることじゃない。その情熱を突き詰めて考えると、使命感に通じます。